第18章 お見舞い
しばらくは何もかも忘れて、ぼーっと湯に抱かれて。
無意識のうちに両手で湯をすくい、なんとなく覗きこむ。
……ナナバさんと前に、こうやって…。
「好きな人が映ったらいいのにね」
あのとき、ナナバさんの声は少し掠れていた。ナナバさんは好きだった班長さんの話をしてくれたけれど、気になっている人がいるとも言っていた。
一体、誰を想い浮かべていたのだろう?
……私は。
私はあのとき、何度も何度も想い浮かんできた人を打ち消していた。
だって好きかどうかもわからなかった。どうしたらいいかもわからなかった。
……でも今は。
今度は自分の気持ちをはっきりと意識しながら、両手ですくった湯を覗きこんだ。
揺れる湯にぼんやりと浮かぶ面影。
今はそれが誰か確信している。
「……リヴァイ兵長…」
やっと見つけた、私の想い。気づくことのできた私の気持ち。
おつきあいしたいとか、そういうのではないけれど。というか、ペトラもこう言っていたっけ…。
「……大体 兵長が恋愛に興味があるとは思えない。だから誰ともつきあう訳ない。ってことは兵長に本気になっても自分が辛いだけ。だからファンでいるのが一番なのよ」
本当にそのとおりだわ。きっと本気で好きになったら自分が辛いだけ。
でもファンだと公言して、その姿を目で追うというのも何か違う気がする。
叶うことはなくても、ずっと心の奥で温めておきたい初めての気持ち。
やっと見つけてあげた生まれたての私の想い。
親鳥がひなをはぐくむように、大切にしたい。
マヤはそこまで気持ちを整理して、ふとつぶやいた。
「……でも、ペトラに内緒にはできないわ…」
すくっていた湯をぱしゃっと湯船に返しながら、大切な友達に打ち明けようと心に決めた。