第18章 お見舞い
大浴場には誰もいない。
調査兵団の一員になってから一年と数か月、こんな経験は初めてだ。いや訓練兵時代から数えても、このような大浴場にたった一人でいることはなかった。
髪と体と顔を、もこもこの入道雲のように泡立てた石けんで洗った。
……気持ちいい!
泡を熱い湯で流すと、肌がきゅっきゅと今にも鳴りそうに輝いている。
……気持ちいい!
そして今、広い湯船に身を沈めている。場所はいつものお気に入りの、入り口から見て左奥の角あたり。
「……はぁ…、気持ちいい!」
熱くもなく… かといってぬるすぎることもない最高の湯加減。綺麗に洗ってすっきりとした肉体をその絶妙な温度の湯に包まれる感覚は、何にも増して気持ち良かった。
湯の中でうーんと声を出しながら、手足を伸ばす。
……あ、やってみようかしら… あれ…。
マヤは前にナナバがやっていた両足を湯から突き出すポーズをやってみようと思った。
ナナバの綺麗なV字に突き出された脚の美しさが忘れられない。
その後何度かやってみようかと思ったが、人の目が恥ずかしくて実行できずにいた。
……今なら誰もいないもの。えいっ!
ザッバーーーン!
……確か両腕もこうやって上げていたはず!
バンザイをするように両腕を上げてみる。
………。
腕はともかくV字に突き上げた脚の付け根が、ぷるぷると痙攣する。
「きっつ…。無理…」
マヤは早々に断念して数秒で脚も腕も下ろしてしまった。
「……ナナバさんってすごい…」
誰も見ている人がいなくて良かったと、心の底からそう思うマヤであった。