第18章 お見舞い
ラドクリフ第三分隊長の前でそう言いきったマヤの声は、心なしか震えていた。
「そうだな、マヤ」
そう返した大きな図体の男の声もまた、どこか。
「お前の言いたいことはよくわかるし、俺も若いときはそうだった。だがな… 亡くなった仲間の誇りを俺が信じて、受け継いでいくんだよ」
その言葉にマヤがはっと見上げた先には、今日の空のように明るい灰色の瞳が揺れていた。
「俺が誇らなきゃ、誰が誇るんだ! ってな」
「そうですね…。そうですね…!」
なぜか同意の言葉を繰り返したマヤに、ラドクリフは力強くうなずく。
「そうだろ? そうなんだよ!」
「はい!」
なんだか似たような言葉を繰り返してうなずき合っているラドクリフとマヤの横で、アウグスト医師はフッとひとりで笑った。
……ラドクリフとマヤ…。意外な組み合わせだが気が合うんだな。
「分隊長。どんな困難な状況であっても、心の中の誇りは持ちつづけていきたいです」
「あぁ、俺もだ。マヤ…」
左手に持っていた黄色い花束を差し出した。
「見舞いの花だ」
「ありがとうございます」
受け取った花は、中央の丸い花芯から黄色の細い花びらが放射状にびっしりと広がっている。
「可愛い! ガーベラ… ですよね?」
「そうだ」
「明るい黄色…。なんだか元気が出てきます」
お日さまのような愛らしい花を抱えて喜んでいるマヤに、ラドクリフは照れくさそうにつぶやく。
「そいつの花言葉は “希望” と “常に前進” なんだ」
「希望と前進…。いい言葉…」
「あぁ。俺たち調査兵にぴったりだろ?」
「ええ。もともと好きな花ですけど、もっと好きになりました」
抱えている可憐な花にも負けぬような笑顔を向けてくるマヤが、ラドクリフにはまぶしい。