第18章 お見舞い
「……それは… ご大儀でしたな」
アウグストがラドクリフをねぎらった。
「何度やっても慣れないもんです」
そう言ってまた右手で頭をかくラドクリフだったが、左手には黄色い花を束ねて持っている。
「マヤ」
ラドクリフが戦死者の実家訪問をしていたと聞いて、黙ってうつむいているマヤに優しく話しかけた。
「そんな顔するな。……確かに辛い仕事ではあるがな。でも一緒に戦った仲間の最期を親御さんやご家族に報告することは…」
そこで言葉が途切れた。
マヤが思わず顔を見上げると、ラドクリフは眉間に皺を寄せて、何かを必死で考えている…、いや探している、自身の気持ちをそのままに表すことのできる言葉を。
「俺にとって誇りだ」
「……誇り?」
部下がむごたらしく巨人に殺されたのに?
怪訝そうに顔をゆがめたマヤに力強く答える。
「あぁ。俺も、俺の仲間も。俺の上司も先輩も同期も後輩も。もちろんマヤ、お前も。常に全力で巨人に立ち向かい、戦っている。それは俺たち調査兵団が唯一誇れるものだ。たとえ結果が死であったとしても」
「………」
マヤはすぐには何も言えなかった。
確かに全力で戦っている。それに対して気概がなければ、調査兵としての存在意義がない。
だけれども、それは訓練を重ねて鍛えて。壁外で実際に巨人と対峙し、戦って。そういう実体験のある私たち調査兵だけの意識なのでは…。
……ご家族は… 単純に大切な子供が… 孫が… 兄弟が… 殺されたと、そう思うだけじゃないかしら…。
そんな気持ちのご家族を前にしてしまったら、誇りなんかどこかへ吹き飛んでしまいそう。
「……分隊長の言われるように、誇りはあります。でも…、悲しんでいるご家族の前で、私にはとても… 誇りだと言いきれる自信はありません」