第18章 お見舞い
マヤは今、ベッドのかたわらに立って乱れたシーツを整え、掛け布団をたたんでいる。
朝食に芋のスープとパンを美味しくいただいたあとに半時ほど休んでから、アウグスト医師の診察を受けた。
脳しんとうの方はもちろん、胸の筋挫傷の経過は良好。包帯と湿布を取り払っても痛みはなく、体をあらゆる方向に動かしてみても全く支障はない。
「ふむ。やはりもう大丈夫だな。よしマヤ、帰っていいぞ」
「はい!」
そうして身支度をして世話になったベッドを整え、あとはアウグストに “ありがとうございました” と挨拶をして退室するだけとなった。
机に向かって何か書類に目を通しているアウグストの後ろに立ったマヤが声をかけようとしたそのとき。
コンコンとノックする音と同時に勢いよく扉がひらいた。
マヤとアウグストが反射的に振り向くと、そこにはラドクリフ分隊長が立っていた。
「マヤ!」
まん丸な顔を嬉しそうに輝かしてラドクリフは叫んだ。
「ラドクリフ分隊長!」
「寝てなくていいのか? アウグスト先生、マヤの容体は?」
「ふむ。容体も何も… 完治して今から部屋に帰るところだ」
「えぇ!」
顔を少し赤くしながら、右手で頭をかいている。
「……すまない、マヤ。見舞いに来たんだが、遅かったみたいだな。昨日に来たかったんだが、壁外調査で亡くなった…、ほらお前んとこが倒した奇行種の被害者たちな…。俺の分隊のやつらなんだ」
はっと息をのむマヤ。その様子を見ながらラドクリフはうなずく。
「だから昨日は訪問でな…」
壁外調査で命を落とした兵士の実家には、直属の上司が訪問する慣例だ。殉職の報告、遺品の引き渡し。泣き崩れる肉親、罵倒する家族。
「………」
マヤはかける言葉が見つからない。
亡くなった兵士が都合よく皆、同じところに住んでいる訳ではない。朝から馬を駆って夜遅くまで…、場合によっては泊りがけになることもある。