第18章 お見舞い
ベッドに戻って窓の外に目をやる。枝の上にヒヨドリはもういなかった。
しばらく樫の木を眺める。
立派な枝が数えきれない葉をつけて、誇らしげに大空に向かって腕を広げているかのようだ。
樫の木を包みこむ大空に浮かんでいる雲は、今朝はことのほか多い。そのせいで空の色が青みを多分に含んだ明るい灰色だ。
……今日は一日、曇りなのかな?
そんなことを考えていると、階下の食堂から人の気配を感じた。
きっとすぐにでも朝食の良い香りが漂ってくるのだろう。
……ここは… 平和だなぁ…。
壁外を知っている者としては、壁内の日常は安穏として心地良い。いつしかマヤは軽く目を閉じ、再び眠りの淵に落ちてしまった。
「おはよう」
耳元でささやかれた野太い声に、マヤは驚いて目を覚ました。
すぐそこにアウグスト医師の無精ひげがある。
「………!」
……え? あ、私… 寝ちゃってたんだ。
「おはようございます」
「はは、よく眠ってたな」
サイドテーブルにはパンとスープのいつもの朝食が置いてある。
「はい。一回起きて顔も洗ったんですけど、いつの間にやら寝ちゃってたみたいです」
恥ずかしそうにしているマヤに、アウグストは笑った。
「ふむ。そんなに居心地がいいんなら、ここに住むか?」
「遠慮しときます!」
「ははは、冗談だよ」
「ふふ」
朝の医務室は笑い声に包まれていく。
「調子は問題なさそうだな。食後、一番に診察しよう」
「はい、お願いします」
「ふむ。では食べ終わったら声をかけてくれ」
「わかりました」
返事をするマヤにうなずくと白いカーテンを閉めて、アウグストは自身の机へ。
マヤは “いただきます” と両手を合わせた。