第18章 お見舞い
噛まれた薬指を月光にかざしてみれば、第二関節のあたりに小さな赤い噛み跡がついていた。さながらそれは真紅の指輪のよう。
フッと片側の口角を上げるとマヤを見やる。
つい今しがた眉間に皺を寄せて熱い吐息を漏らしていたのが嘘のように、穏やかな寝顔をさらしていた。
……悪かったな…。
そのまま寝顔をじっと見つめながら、マヤの唾液にまみれた指先をぺろりと舐めると医務室を出ていった。
私室に帰ったリヴァイは、どさっとベッドに寝転がった。
ランプを灯す気分にはなれず、明かりは月影のみ。
左手は頭の下にして、右手を宙へ伸ばす。薬指にはもう、なんの痕跡もなかった。
どうしてももう一度、あの小さな噛み跡を目にしたくて…。右手の手のひらと手の甲をひっくり返しては確認した。
……消えたか…。
綺麗さっぱりといつもどおりの骨ばった細い指が、月光を浴び白く浮かび上がっている。
確かにここに、まるで真紅の指輪のように噛み跡があったのに。それはマヤが俺に刻んだ印かと思えば、愛おしい傷だったのに。
消えてしまった、まぼろしのように。
あれは…、あの行為は本当にあったことなのか。
寝顔を一目見て、去るつもりだったのに。
頬にふれれば、紅いくちびるを感じてみたくなり。くちびるを知れば、その中を犯したくなる。
眠っている部下の口に指を突っこむだなんて。
……この俺のやったことなのだろうか。
今この白い月の光が赤い噛み跡を照らせば信じられただろうが、もう何も照らしはしない。
きっと医務室で月影が俺に見せたものは、はかない夢幻だったのかも。
はぁっとため息をつくとリヴァイは、右手も頭の下に置いた。そのままの姿勢でごく短い眠りのために瞳を閉じた。