第18章 お見舞い
「え~、君たち可愛い顔してホントにひどいなぁ!」
そこでまた全員が笑い、医務室はなごやかな空気に包まれた。
そしてしばらくの間はどうということはない世間話…、食堂のメニューであったり街の雑貨屋の話などをしていたが、パンッとハンジが手を叩いた。
「いつまでもおしゃべりしていたいが、そうもいかない。マヤ、名残惜しいがそろそろ行くよ」
「はい。来てくださってありがとうございました」
「……ひとりで大丈夫? 淋しくない?」
心配そうなナナバにマヤはとびっきりの笑顔を向けた。
「大丈夫です。この本がありますから!」
マヤが指さした本 “恋と嘘の成れの果て” に目をやり、ニファが心から嬉しそうな声を出した。
「愛読してくれてるんだね!」
「ええ、そりゃもう…!」
「どこまで読んだ?」
「えっと… アベルの幼馴染みで婚約者だとかいう娘がやってきて、妊娠してるとか大騒ぎするところまで」
「うわ~、そこかぁ…。せっかく二人が落ち着いて暮らせそうになったのに性格の悪そうな女が現れるんだよね…。もうあと少しだね、ラストまで」
「はい。一気に読んじゃいそうです」
「だよね~! 最後の山場だもん」
ニファは自分が貸した本をマヤが気に入っていると知ってご機嫌だ。
「あ、そうだ。続編が出るの知ってる?」
「そうなんですか?」
「うん。ほら、マヤの今しおりを挟んでるとこ、もう後ろの方でしょ?」
うなずくマヤを見つめながら、ニファはつづける。
「ネタバレになるけど、その幼馴染み婚約者の話の途中でその本終わっちゃうのよ」
「ええええ!」
マヤは思わず大きな声を出してしまった。