第18章 お見舞い
それから数時間後。
マヤは読んでいた本 “恋と嘘の成れの果て” をぱたんと閉じた。
物語は、駆け落ちした主人公のアンと恋人である貴族の子息アベルが様々な難局を乗り越え、ようやく人里離れた小さな村で誰にも邪魔されずに幸せに二人で暮らす… と思いきや、アベルの幼馴染みの貴族の娘が現れ “おなかにアベルの子を宿している” と告げる。否定せず曖昧な態度のアベルにアンが絶望し村を飛び出すところまで読んだマヤはため息をついた。
……もうこれ、どうなっちゃうの?
本をサイドテーブルに置き、水差しからコップに水を注ぐとごくごくと一気に飲んだ。
あまりの激しい展開に喉が渇いたのだ。
空のコップを置き一息つくと、窓の外を眺める。
午前中には見当たらなかった雲が湧き、青空とのコントラストが鮮やかでまぶしい。
……早く明日にならないかな。
昼食のサンドイッチとポテトサラダを美味しくいただいたあとに、午後から診察があった。包帯と湿布の交換がてらおこなわれた視診および触診の結果、もう一晩医務室で休んだら明日には自由だと言われたのだ。
大喜びしているところへ、ペトラが部屋から荷物を持ってきてくれた。ペトラも診察の結果を一緒に喜んでくれた。
早速顔を洗い、歯を磨く。ふかふかの白いタオルに顔をうずめると、明日には元どおりの生活を送れる幸せを噛みしめ喜びがこみ上げてくる。
うきうきした気分でベッドに入り、ペトラが持ってきてくれた本を読んでいたのだ。
物語の一区切りまで読み終え、ぼーっと空を眺めていると。
コンコン。
ノックの音がして、誰かが入ってきた。カーテンで見えないが、アウグストの声ですぐに知れた。
「ミケ分隊長、マヤの見舞いかな?」