第6章 食堂の兵長
マヤがそっと兵長の方をうかがうと、兵長もじっとマヤを見ている。
……あれ?
マヤは兵長がどうやら怒ってないらしいとわかって幸せな気持ちになったのも束の間、次の問題点が浮かび上がるのを感じた。
すでに空になっているパン皿に目をやりながら考える。
……兵長、私に何か用なのかな?
食堂の中とはいえ、一応二人きりの状況に今はある。
入団してから今この瞬間に至るまで… このような状況は初めてだ。
マヤは考えを巡らす。
……あれ? 兵長って、あっちの席で朝ごはん食べてたよね?
確か… オルオも挨拶していて…。
食べ終わってトレイを片づけてから、わざわざここまで来て座ったってこと?
……なんで?
マヤが再び顔を上げると、やはりリヴァイはじっと見つめていた。その射抜くような視線に、心臓がドキドキする。
……何? なんの用なの? 黙って見つめてきて怖いんですけど…。
マヤが兵長に何か御用ですか?と訊こうとしたとき、背後から声が聞こえてきた。
「……兵長? マヤ?」
振り向かなくてもわかる。
……ペトラだ。
マヤは何も悪いことをしていないのに、罪悪感を抱く。
ゆっくり振り返ると、ペトラが不審そうな様子で立っていた。
「あ、あのね… ぺ、ペトラのハンカチをね…」
マヤは焦って、しどろもどろになってしまった。
マヤの言葉を受けて、ペトラはテーブルの上を見渡した。
「そうそう、ハンカチを忘れて取りに戻ったんだけど…」
テーブルの上にハンカチがないことに一瞬ペトラが戸惑っていると、リヴァイが先ほどポケットにしまったハンカチを出した。
「もう忘れるな」
「兵長! すみません!」
ペトラが顔を赤くして頭を下げると、
「じきに訓練が始まる。遅れるな」
と言い残し席を立つと、リヴァイは行ってしまった。
その姿を見送ってから、ペトラが叫んだ。
「マヤ! どういうことなの?」
「それが私にも何がなんだか…」
ペトラの勢いは止まらない。
「どうして兵長と見つめ合ってたの!?」
「えっ? 見つめ合ってなんかないない!」
マヤは大きく首を振る。
「いいや、見つめ合ってた。絶対に見つめ合ってた!」