第6章 食堂の兵長
マヤは立ち上がって、トレイをカウンターに返しにいく。
ペトラがその後ろをぴったりとついて、矢のように質問を浴びせていた。
「……で、何? あのあとオルオも先に食べ終わって出ていって、気づいたら兵長が前に座ってたって?」
「うん、そのとおり!」
「なんで?」
ペトラは疑わしそうな声を出す。
「それはこっちが訊きたいよ」
「………」
マヤとペトラは食堂を出て、それぞれの訓練場所に向かって歩いている。
ペトラは歩きながらしばらく考えに耽っていたが、急に立ち止まった。
「マヤ」
「うん?」
「兵長に何か言われた?」
「ううん」
マヤはペトラにもう一度説明する。
「兵長が向かいに座って、私が焦ってしまってハンカチをペトラに返してくださいなんて言っちゃってから しまった!と思って謝って… ただそれだけよ?」
「ふぅん…。でも何かマヤに用事があったから来た訳でしょ?」
「うん そうだろうね。私もそう思って何か用ですか?って訊こうとしてたところにペトラが来たのよ」
「ふぅん…」
ペトラはまた不満そうに相槌を打った。
「……で、私が声をかけるまで二人は見つめ合ってたって訳ね!」
「……だから 見つめ合ってないってば…」
「そろそろ行かないと駄目だね。この話は またあとで!」
訓練の時間が始まるので、二人はそこで別れた。
マヤと別れてからもペトラは、たった今見た光景が頭から離れなかった。
食堂に入るとうつむいているマヤを、向かいに座った兵長がじっと見ていた。
入団してから、ずっと兵長を見てきた。
マヤやオルオがわからないという兵長のやわらかい表情も知っている。
しかし先ほどペトラが目にした兵長の表情は、初めて目にするものだった。
それは一見穏やかなように見えて、強くマヤを求めていた。
マヤが顔を上げて二人の視線が絡み合うと、兵長の瞳はかすかに揺らいだ。
……あんな兵長の顔 見たことない…。
ペトラの胸はずきんと疼いた。