第18章 お見舞い
マヤの言葉どおりにすぐに小鳥はやってきた。
チュチュンチュチュンとさえずっているのは、白と黒のツートンカラーが可愛いハクセキレイだ。
この鳥は朝の自主訓練で森に向かうときに、比較的よく見かけるお馴染みの鳥だ。
……ふふ、可愛い!
今日は雲ひとつない青空が広がっている。その快晴をバックに樫の木は枝を広げ、風が葉を揺らし、小鳥が羽を休めにくる。
何もすることもなく暇だと思っていたが、窓の外の景色はこんなにも美しい。
……ただ眺めて愛でるだけでも穏やかに、時は楽しく過ぎていくものなのだわ。
マヤが心ゆくまで窓の外の景色を楽しんでいると、今度はどこからか良い香りが漂ってくる。
鼻こうをくすぐるこの香りは…。
……コンソメスープ!
階下の食堂から匂ってきているに違いないその魅惑的な香りに、マヤは目を輝かせた。
少しスパイシーな香りを嗅ぐたびに、黄金色に輝く澄んだスープが頭に浮かんでくる。
「……おなか空いた…」
ついつい声も出る。
スープの香りはマヤの胃袋を強烈に刺激した。
「……先生早く、来ないかなぁ」
がちゃりと鍵の音がして勢いよく扉がひらかれた。
どうやらアウグストがサンダルの足で扉を蹴ったらしい。
壁の時計は7時半を少しまわったところだ。
「おはよう」
アウグストは手に持った朝食のトレイをサイドテーブルに置いた。
「おはようございます、アウグスト先生」
「眠れたかな?」
「はい! すごくよく眠れて朝、鳥の鳴き声で起きるまでぐっすりでした」
「ふむ、それは良かったな」
白い歯を見せて、にっと笑う。
朝一番なのに無精ひげで爽やかさのかけらもないアウグストだったが、その笑顔はとびっきり素敵なものだった。