第18章 お見舞い
マヤが窓を開けたことでヒヨドリは警戒して鳴くのをやめてしまった。飛び立ちはしなかったが、落ち着かない様子で枝に止まっている。
「おはよ!」
一階のマヤの居室の窓のそばには、鳥が来るような樹木がない。
今ここ医務室で、鳥のさえずりにより目覚めるという最高の朝を体験し爽やかな気分でいっぱいだ。
嬉しくなって思わずヒヨドリに声をかけてしまったのだ。
驚いたヒヨドリはピーッ!と鋭い鳴き声を上げて飛び立ってしまった。
「あぁぁ… 行っちゃった…」
ヒヨドリが飛んでいった空をしばらく眺めていたが、ベッドに戻る。
まだ朝も早いしもう一度寝ようかと目をつぶってはみたが、あまりにもすっきりと目覚めたため全く眠れそうにはない。
それならとベッドから這い出て顔を洗おうと思ったが、あいにくタオルもない。
昨夜も便所で洗った手は、ポケットのハンカチで拭いたのだ。
……タオルと洗面道具が欲しいな…。
マヤはそう思いながら、仕方なく便所に行き用を足した。
医務室に戻ってきて、さてどうしよう。
眠気はないし、本もない。ならば医務室の掃除でもしようかと思ったが、安静にしないといけない身でそれは許されない。
……やはり安静にするために、ここに泊まったんだもの。寝てなくちゃね。
マヤはひとりでうなずくと、大人しくベッドに入ってアウグスト医師の出勤を待つことに決めた。
横になったはいいが眠気は全くないので、目をぱっちり開けたまま窓の外を眺めた。
横たわったベッドからは先ほどヒヨドリがいた樫の木の一部がよく見える。
今は遊びにきている小鳥はいないが、その立派な枝ぶりにマヤは微笑んだ。
「大きくて立派な木だわ。きっとこのあたりの鳥たちの憩いの場所ね」