第18章 お見舞い
アウグストが退室したあと、ソファから立ち上がると執務机の前まで行く。
持っていた報告書を提出して出ていこうとしたら、呼び止められた。
「リヴァイ」
足は止めたが、振り返りはしなかった。
「マヤだが…、大事に至らなくて良かったな」
「あぁ」
数秒待ったが、エルヴィンがその後何も言わなかったので俺は黙って部屋を出た。
背後でエルヴィンが、にやにやと笑っていたのか… あきれはてていたのか、それともクソ真面目な顔をしていたのかは知る由もないが、声にはある種の優しさがこめられている気がした。
自分の執務室に戻って椅子にどかっと座った。
今日中に処理をしたい書類は、まだ山積みになっている。
……重傷でなくて良かった。
アウグストの話していた限りでは、数日で元どおりの生活を送れるようになるのだろう。
それまでは医務室で安静か…。
頭の中で金属音がかちりと響いた。エルヴィンの机にアウグストが置いた鍵の音だ。
……鍵なら、ここにもある。
リヴァイは机の引き出しを開けた。
そこにはきちんと仕分けされて、各種の鍵が収納されていた。
兵士の居室以外の各部屋の鍵は… たとえば応接室や事務室、会議室に医務室などは団長室と兵士長の執務室にそれぞれ一本ずつ保管されている。
施錠されていない部屋は食堂に談話室、図書室、資料室、予備室だ。これらは内側から施錠できるようにはなっているが、実質年中開放されている。
マヤの顔を一目でいいから見にいきたいが、壁外調査後の処理業務が多すぎて日中に時間が取れそうにない。
……ならば。
日付はとっくに変わった。あたりは森閑と静まる闇が支配している。
ようやく書類の処理に一区切りがつき、リヴァイは引き出しから銀色のなんの変哲もない一本の鍵を取り出すと執務室を出た。