第18章 お見舞い
ユージーンがスペリオル村で処方した強めの鎮痛剤の影響で深く眠るマヤを横抱きにし、取り急ぎ医務室へ飛びこんだ。
普段どう見ても適当にやってるんじゃねぇかといった態度のアウグストが俺の様子を見てめずらしく慌てたが、ベッドに寝かせたマヤをほんの少し診ただけでこう言い放ちやがった。
「兵長の手を煩わせるようことは何もない。マヤが起きたら診察するんでお引き取りを」
立ち去らない俺に追い討ちをかける。
「壁外から帰ったばかりで忙しいでしょう? それとも意外と暇なのかな?」
………!
何か言い返してやろうかとも思ったが、ぐっとこらえて医務室を出た。
確かに壁外調査のあとはいつにも増して忙しい。山のように上がってくる書類に目を通さなければならないし、自らも報告書の作成に忙殺される。
医務室から執務室に直行し、ずっと書類と格闘してきた。
没頭しているうちに陽は落ち、窓の外の色は蒼ざめ灰色がかっていく。
エルヴィンに所用があり団長室へ出向くと、ちょうどアウグストと鉢合わせた。
俺は黙ってソファに腰を下ろし、アウグストに譲る。
「団長。マヤですが…」
何故かちらりと俺の方を見やがった。
「頭の方は大丈夫かと。この先ひどい頭痛でも出てきたら、そのときにまた診ます。それから強打したと思われる胸部ですが…」
ここで言葉を切った。
……勿体をつけてないで早く報告しやがれ。
「恐らく筋挫傷で、あばらは折れてないでしょう。数日安静にしたら全快するかと…」
「……わかりました。各方面への伝達は私の方でしておくので先生は上がってください」
「ふむ。では失礼させてもらいますよ」
アウグストはエルヴィンの執務机に医務室の鍵をかちりと置くと、一礼して出ていった。