第18章 お見舞い
医務室に戻ると後ろ手で扉を閉めた。そのままベッドに行きかけるがふと、アウグスト医師の言葉を思い出す。
……そうだ、鍵をかけないと…。
鍵をかけベッドに戻る途中なんとはなしに、先生の机の上に視線がいく。
無精ひげで白衣をいつもだらしなく着ているアウグストだが、机の上はぴしっと整頓されていた。見たこともない難しそうな医学や薬学の専門書もならんでいる。
ベッドに入ったものの、自室みたいにあれこれとすることもなく暇だ。
……本でもあればなぁ…。
そう思うが、ないものは仕方がない。布団を引っ被って目をつぶれば、このまま眠れそうな気がしてきた。
湿布と薬のおかげか患部は痛くないし、おなかも満たされた。
何より無事にここへ… 兵舎へ帰ってこられた…。
満ち足りた安心感が眠気を誘う。
もう少し頑張って… 自分の部屋に帰りたいなぁ…。
………。
マヤはいつしか深い眠りに引きずりこまれていった。
それからいかほどの時が経ったのか。すっかり夜は更け、兵舎全体が眠りの魔法にかかったかのように静まり返っている。
窓の外は月の光が降りそそぐ様子さえ、音が聴こえてきそうな静寂に包まれていた。
がちゃり。
しんとした医務室に鍵の開く音が無機質に響く。
しばらくして音もなく扉がひらくと、黒い影が滑りこむように入ってきた。
まっすぐにマヤの眠るベッドへ向かう。
忍びやかな月の光をまるで背負ってきたかのように窓辺に立つのは、リヴァイだった。
……マヤ…。
落ち着いた様子で静かに眠っている寝顔を見下ろし、ほっと安堵の息をつく。
無事に壁外調査から帰還し、誰にも手出しはさせずに自らこの医務室に運びこんでから何時間が経ったのだろうか。