第18章 お見舞い
「これは鎮痛剤。飲んでおくように」
サイドテーブルに白い錠剤を二錠置く。
「わしはもう上がる。鍵はかけておくが、便所に行ったら忘れずに中から鍵をかけるんだよ?」
「わかりました」
「水は置いておくから」
アウグストは水差しとコップを残し、食器の乗ったトレイを持ち上げた。
「ふむ。では明日な」
「はい、ありがとうございました」
マヤが頭を下げると、アウグストは自分の机まで行き、鞄を肩にかけると出ていった。
がちゃりと外から鍵をかける音が響く。
ぱたぱたぱた…。
アウグストのサンダルの足音が遠ざかる。
なんだか急にひとりぼっちになった気がした。
そう感じれば、先ほど涼しく感じられた窓からの風が冷たい。透明な変幻自在の風の手が全身を撫でまわす感覚におちいる。
軽く身震いをしながら立ち上がり、窓を閉めた。
……薬を飲まなきゃ。
水差しからコップに水を注ぎ、テーブルに置かれた鎮痛剤を飲む。
ベッドに入りかけたが、ふと思う。
……手を洗いたいな。
すると急にお手洗いにも行きたいことに気づく。
……そりゃそうよね。全然行ってないんだもの。
マヤは寝ている間に粗相をしていなくて良かったと安堵しながら医務室を出た。
便所は、医務室を出て隣のリネン室、備品室、技工室の前を通り過ぎて廊下の一番端にある。
用を足し、手を念入りに洗うと、備えつけの鏡を見る。
……やっぱり、ひどい顔…。
壁外調査に出る前とは違う、やつれた様子の自分が映っていた。
「もう寝よう!」
自分で自分を奮い立たせるように、わざと大きな声を出すと便所を出た。