第18章 お見舞い
アウグスト先生ことアウグスト・オドーネは、調査兵団の兵舎の医務室に通いで勤務している常駐の医師だ。
「気分はどうだ?」
にこにこと柔和な顔だが、その眼はマヤのちょっとした身体の変化を見逃すまいとしている。
「ん… 少しふらつきますけど、大丈夫です」
「ふむ。ちょっといいかな」
と、マヤの額に手をやる。
「熱はないようだな…。マヤ、起き上がれるか?」
「はい」
胸に巻いてある包帯のおかげか、はたまたユージーンが飲ませた強めの鎮痛剤のおかげか…。痛みもなくすんなりと身を起こすマヤ。
「ふむ。いいようだな…。さてユージーンからの報告によれば、高所から落下したことによる脳しんとう。また巨人に掴まれた上半身の胸部になにがしかの異常があると見受けられる… とのことだが…」
うなずいているマヤを確認しながら、よどみなく話しつづける。
「まず脳しんとう。意識が戻ってから何か… 記憶の喪失や障害があるかな?」
「いえ…、ないと思います」
「自分が誰で何故ここにいるか、昏睡していた時間以外の記憶はすべてつながっているかな?」
「はい」
「覚醒したあとに顔を合わせた人を全員、認識できているかな?」
スペリオル村の朝に、部屋に様子を見にきてくれた人たち全員を思い浮かべた。
エルヴィン団長、ミケ分隊長にハンジさん、ユージーンさんにリヴァイ兵長。
……大丈夫。皆さんを憶えてる。
「はい」
「ふむ。ではちょっとこのペン先を見て」
アウグストは白衣のポケットから万年筆を取り出すと、そのペン先をマヤの顔の前に掲げた。
「顔を動かさずに目だけでペン先を追ってみてくれ」
そう言いながらペン先をゆっくり右に左に動かしていく。マヤは目だけでその動きを追いつづけた。
「ふむ。眼振(がんしん)もなしだな。恐らく脳しんとうの方の影響は何もなかろう。問題は、あばらだな…」