第18章 お見舞い
……んんん…。
目覚めそうで、まだ早い。
眠りの淵から這い上がれそうには到底ない。
少しずつ… 少しずつ意識は覚醒に向かって上昇しているのに、肉体は底に沈んだまま。
……起き… なきゃ…。
意識が向かう先は、ぼうっと白くだだっ広い。それが何なのか、まぶたを開けて確かめたいのに。
身体はずんと重く沈んだままで、起きなきゃと思う意識とうまくつながっていない。
白さ以外にも、何か感じる。布がすれ合う音、きぃと軋む音、かさかさと紙が生む音。
徐々に認識できる情報が増えていく。
つんと鼻から抜けるこの匂いは。
……あっ。
急速に冴える意識にやっと、肉体も追いつき始めた。
そして突如としてマヤは目覚めた。
自分でも予測していないタイミングでふいに意識と肉体が同調し、ぱちっとまぶたがひらいた。
飛びこんできたのは白い天井。膨張して広がる無機質な原っぱ。
そして急速な覚醒をうながした消毒液の匂い。
……医務室だわ…。
身を起こしてあたりを見まわさなくても、今いる場所は明白だった。
広がる白い天井。つんとした消毒液の匂い。かすかに白衣の衣ずれの音がしたと思えば、回転椅子がきぃきぃと軋む。アウグスト先生がいらっしゃるんだわ、かさかさかさ… カルテを見ているのかしら?
「ん…」
まだ少し頭がくらくらする。起きるには起きたが、まだ頭のてっぺんに気怠さが張りつき、マヤを揺さぶっていた。
ぱたぱたと足音がして、シャッと白いカーテンが引かれた。
「マヤ、起きたのかい?」
白衣の前がはだけ、素足にサンダルを履いている。
白髪まじりのいわゆるごま塩頭に、相変わらずの無精ひげ。
記憶しているまんまのアウグスト医師の姿に、マヤは笑みがこぼれた。
「はい、アウグスト先生」