第17章 壁外調査
有無を言わせない強固な響きに観念したマヤは、もうどうにでもなれ! とぎゅっと目を閉じた。
そして必死で自身に暗示をかける。
今私は兵長に見られたりなんかしていない。兵長は私のことなんか見ていない。この部屋には今私しかいない。
頑張って自分に言い聞かせていると、なんだか少しだけそんな気がしてきた。
そうだ、オルオがいつか言ってたっけ。なかなか眠れないときには巨人を数えろって。
そのとき一緒にいたペトラが “なーに馬鹿なこと言ってるんだか!” とせせら笑っていたけど、もしかして効果があったりするのかな?
やってみたことはないけど… こうかしら?
巨人が一匹、巨人が二匹、巨人が三匹、巨人が四匹…。
ふいに自分に伸びてきた巨人の腕が脳裏に浮かんで、びくっと身震いする。
駄目だ、今の私には逆効果だわ…。
ぎゅっと閉じているマヤのまぶたがぴくぴくと動く。
巨人は怖くなるから無理ね。
じゃあ怖くない何か… いや… 誰…か…?
少しずつ色々と頭の中で考えている事柄がぼんやりとしてくる。
頭がごっちゃに、思考の断片がないまぜになっていく。
そして半ば無自覚で数え始めた。
オルオが一匹、オルオが二匹、オルオが三匹、オルオが四匹…。
白く広がる原っぱに、半裸のオルオがどんどん増殖しながらスキップしている。
とても楽しい幸せな気持ちに包まれて、マヤは眠りの淵に引きずりこまれながら笑った。
「ふふ…」
何故か俺の前で眠ることに抵抗を示したマヤだったが、やっと諦めたらしく目をぎゅっとつぶった。
しばらくは眉間に皺を寄せ、まぶたがぴくぴくと動いていたが、そのうち柔和な表情になっていく。
「ふふ…」
笑いやがった。もう夢でも見ているのか?
幸せそうな寝顔。
怖い目に遭ったんだもんな。せめて俺の前で眠っているときくらい安心して楽しい夢でも見てほしい。
巨人から守ってやるのは無論のこと、今みたいな平穏で幸せなときも守ってやりたい。
そう強く願いながら、リヴァイはいつまでもマヤの寝顔を眺めていた。