第17章 壁外調査
「……何がおかしいんだ」
飛んできた不機嫌そうな声に、慌てる。
「あ! ごめんなさい。あの…、前にも兵長と一緒のときに濡らしてしまって、白い布で拭いたなぁって思って…」
「あぁ…」
……あのときか。
飲み会でエールを胸元にこぼしてしまったマヤに、白いハンカチを貸したな… そういえば。
「いつも… すみません」
「いや…、お前は俺の前でこぼしすぎだな」
「あの…、お言葉ですが兵長…」
マヤが軽く頬をふくらます。
「さっきこぼしたのは、兵長ですけど…?」
「ハッ、そうだな」
リヴァイの白い顔にかかる黒い前髪がさらりと揺れた。ほんのわずかだが、笑ったようにマヤには見えた。
トクン。
胸が小さく跳ねる。
マヤはリヴァイから視線を外す。
跳ねている胸の鼓動も、きっとずっと赤いままの顔も、先ほど優しくぽんぽんと拭いてもらった胸元がじんじんとしびれているのも。
……みんなみんな、知られたくない。
自分の気持ちを知られまいと目を伏せたマヤに、リヴァイの胸はちくりと痛んだ。
二人の間に二人だけの特別な空気が生まれた途端に、マヤが距離を置いた気がする。
もっと笑った顔を見ていたかったのに。もっとその声を聞いていたかったのに。
だが…、マヤの嫌がることはしたくはない。視線を外されたのは、きっとそういうこと。
今夜は意識を取り戻してくれただけで、本当に喜ばしい… 幸せなことなんだ。
だから今は自分の気持ちなんてものを優先すべきではない。
「マヤ、まだ夜明けには幾ばくか時間がある。もう休め」