第5章 立体機動訓練の森
……俺は朝っぱらから何をしているんだ…。
リヴァイは立体機動訓練の森の中ほどにある一本の樹の上にいた。
昨晩オルオの提出した立体機動装置の使用許可申請書にマヤの名を目にしてから、どうにもこうにも落ち着かない。
もともと眠りの深い方ではないが、床についてからも数十分おきに目が覚めた。
……チッ…。
自主訓練開始時刻の一時間も前から、こうして樹の幹に体を預け腕を組み枝の上に立っている。
リヴァイがこの枝の上に飛んできた時分にはかなり濃かった朝霧も、今は射しこむ朝陽によってほとんど消えていた。
……そろそろか…。
リヴァイがそう感じた瞬間、立体機動装置で飛ぶ音が遠方から近づいてきた。
……カンッ! パシュッ! ……カンッ! パシュッ!
かすかに聞こえる程度だった音が、あっという間に大きくなると隣の樹の横を一瞬で通り過ぎていった。
……速い!
オルオか?
……いや、あいつの腕は知っている。ここまで速くねぇ…。
ということは… マヤなのか?
目を凝らすとすでに豆粒のように去っていく背に、一つに結ばれた濃い茶色の髪が揺れていた。
リヴァイがあとを追おうとしたとき、マヤが急に消えた。
……上か!
リヴァイはマヤに気づかれないようにあとは追わず、その場から真上に移動した。
ガサッ…。
樹の頂から顔を出したリヴァイは、遠くにマヤの姿を認めた。
樹々の間から頭だけ出しているマヤの横顔が見える。
その瞳は遥か上空に向けられ、右手を高々と伸ばしていた。
……何をしている?
思わずリヴァイもつられて、空を見上げる。
一羽の大きな鳥が悠然とその羽を広げ、弧を描いていた。