第5章 立体機動訓練の森
立体機動の訓練に使う森は、調査兵団本部の敷地に隣接している。
自主訓練のために早朝、まだ朝霧の立ちこめる森の入り口にマヤは立った。
すーっと深く息を吸いこむ。
肺の中にひんやりとした森の空気が満ちると、少し寝ぼけたマヤの頭もすっきりと冴えていく。
ほどなくしてオルオが、二人分の立体機動装置を倉庫から持ち出しやってきた。
「おはよう、オルオ」
「おはよ、あいよ! お前の」
オルオはマヤの立体機動装置を、投げるように渡した。
「ありがとう」
二人は慣れた様子で腰に装着し終えると、トリガーをカチカチッと空引きして感触を確かめた。
うん… マヤとオルオはうなずき合うと、カチッ!とトリガーを引き頭上にそびえる樹の枝にアンカーを射出しカンッ!と突き刺したかと思えば、パシュッ!とガスを噴出しながらワイヤーを巻き取り、瞬時に樹上に移動していた。
「マヤ、コースどうする?」
「ん… ショートで」
「了解… 今日こそは追いついてみせっからな!」
「オルオ、2秒にしてもいいのよ」
「……なめるなよ! 3秒のままでいい」
マヤはオルオの顔を見て余裕のある表情で笑うと、
「じゃあ、3秒で。行くわよ!」
と唐突にアンカーを射出し、森の奥に消えた。
「1… 2… 3…」
マヤが飛んだと同時に、3秒数えたオルオがあとを追う。
……カンッ! パシュッ! ……カンッ! パシュッ!
立体機動装置で飛ぶ音が、森に響く。
マヤの音がどんどん遠ざかる。
「畜生!」
オルオは追いかければ追いかけるほど、マヤとの差がひらくのを感じた。
「あのチビめ!」
悪態をつきながらガスを思いきり噴かす。
パシュゥゥゥッ!
……カンッ! パシュッ! ……カンッ! パシュッ!
すいすいと森の中を移動していたマヤは、急に上を向いた。
……あっ…。
何かに気づいた次の瞬間には樹の幹にトンッと軽やかにかかとをつけると真上の枝にアンカーを射出し、そのまま上空へ消えた。