第17章 壁外調査
「臭う! 11時の方向! ヤツが来る!」
緊迫したミケの声が終わらないうちに、件の方角から奇行種が突進してきた。
それは7m級で両腕を水平に広げ… まるで鳥が翼を羽ばたかせるようにばたばたと動かしながら、全速力で駆けてくる。進行方向にいた兵士たちを捕食することはなく、ただ野に生える雑草と同じに馬ごと踏みつぶしていた。
「奇行種だ! 速ぇ!」
マヤの後ろから動揺したギータの声が聞こえる。
ミケがその臭いを感知したときには視界の果てに豆粒のように見えていた奇行種は、その恐るべし速度でぐんぐん巨体となって迫りくる。
「俺が殺る! マヤはヤツの気をひけ! タゾロ! 脚を削げ! 残りは援護待機!」
ミケはマヤとタゾロに行くぞ!と声をかけ、自ら爆走奇行種へ愛馬ヘラクレスを走らせた。
マヤも手綱を強く握り、アルテミスお願い!と声をかけ速度を上げる。
ここは周囲に樹木も建造物もない平地。立体機動を使うにはもっとも不利な地形だ。
危険を承知で巨人に接近し、巨人の肉体にアンカーを突き刺してそれを軸にして宙を飛ばなくてはならない。
ミケにおとりをやれと命じられたマヤは、飛ぶ瞬間を見計らっていた。
並外れた速度で地響きをつれて疾走してくる奇行種に、馬で立ち向かう自分。
おとりの自分が “その瞬間” を間違えれば、つづくタゾロとミケ分隊長との連携が狂う。
不思議と気持ちは落ち着いている。
この悪夢のような光景の真っただ中にいても。
両腕を広げて笑いながら走ってくる奇行種、揺れる大地、緊張と恐怖と混乱が飽和した空間。
そんな中、マヤは軽く目を閉じた。
心の感覚を研ぎ澄ませ!
……今だ!
“その瞬間” を捕らえたマヤは目を見開くと、ぎりぎりまで間合いを詰めた奇行種の胸にアンカーを射出した。