第4章 ペトラ
「オルオのこと… 好き?」
「はぁぁぁぁぁ!?」
ペトラはその可愛い顔をゆがめた。
「マヤ、いきなり何を言ってんの?」
「あっ いやぁ… ちょっとオルオのこと、どう思ってるのかなぁ… なんて気になっちゃって…」
「どう思うも何も… なんとも思ってないどころか、論外問題外話にならない眼中にない舌噛み切って死ねばいいのにって感じ!」
「……あはは… そうなんだ…」
「うん。あいつの話なんかしたら今晩、悪夢見そうだわ」
ペトラは、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「……オルオって結構いい人だと思うんだけどなぁ…」
マヤがぼそっとつぶやくと、
「マヤ、男を見る目ないね」
と、ペトラは辛辣に吐き捨てた。
「でも、ペトラが兵長に憧れてる理由って強さもあるでしょ? オルオも強いよ?」
「まぁ そこは認めてやるけどね。でももちろん兵長の足元にも及ばないけど」
「あはは…」
「マヤがどうして急にそんな変なこと訊いてきたか知らないけど、大体オルオがいい男だったとしても、あいつがオムツしてたころから知ってるのよ? そんな風に見れない」
ペトラは一気にまくし立てたあと、さらにつづけた。
「そうだ! マヤだってマリウスのこと、そういう風に見てなかったでしょ?」
「あぁ… うん」
「それと一緒よ」
「そっかぁ…。よくわかったよ」
マヤはペトラの目をまっすぐ見た。
「でもペトラ、マリウスの名前が出たから言うけど… 失ってから大事なものに気づくこともあるよ」
「マヤ…」
「……私は、マリウスの気持ちに気づけなかった」
ペトラは黙ってうなずくことで、マヤに先をうながした。
「ふふ、おかしいでしょ? あんなに好きだ好きだって言われてたのに」
マヤの目は遠くを見ていた。
「私もペトラと一緒。マリウスのことをそんな目で見てなかったし、マリウスが私のことを好きだって言うのだって冗談かと思ってた」
「……うん」
「でもね、マリウスが死んで… 手紙を読んで… 私が気づいてなかったことの大きさを知ったの」
マヤは静かに微笑んだ。
「もちろんペトラに無理強いするつもりじゃないのよ。ただ… 近すぎて気づけないこともあるって知っていてほしいの」