第4章 ペトラ
ペトラの言葉に、マヤは疑問を投げかけた。
「いい人って?」
「うんとね… 訓練のときにちゃんと部下を見ていて、気遣ってくれるよ?」
「………」
マヤは言いにくそうにしていたが、意を決して伝えた。
「……あの… それって…、ミケ分隊長だって気遣ってくれるけど…」
「あはは、そう言われたらそうだね。部下を気遣うなんて当たり前かぁ」
ペトラはあごに手を当て考えた。
「きっと… ギャップかな?」
「ギャップ?」
「うん。マヤが言うように “怖い感じ” の兵長が気遣ってくれたら、あれ? もしかして優しい?ってなるじゃない?」
「あぁ… うん」
「それと雰囲気かな? かっこいいじゃん?」
「かっこいい…のかな? そんな風に見る余裕がないよ、怖くて」
「あはは、でもこれから分隊長の執務を手伝うんだったら、兵長の部屋は隣なんだから会う機会もあるんじゃない? 何度か顔を合わせたら慣れるよ」
「そうだね… そうであってほしいな」
マヤはペトラと顔を見合わせて笑った。
「ねぇ、ペトラ…」
「ん?」
「さっき兵長のこと、好きとかじゃなくってファンだって言ったよね?」
「うん、言ったけど?」
ペトラはそれがなんなの? と小首を傾げた。
「ファンじゃなくって… 本命はいないの?」
「本命?」
「うん、本当に好きな人」
「うーん…」
ペトラは目をつぶってしばらく考えたが、きっぱりと答えた。
「別にいない。強いていえば兵長になるかな?」
「えっ だって兵長は、ファンなだけなんでしょ?」
「そうだけどさ、やっぱ好きは好きだよ。でも憧れっていうか、兵長の恋人になろうとか思ってる訳じゃないからさ」
「……そうなの?」
「うん、大体 兵長が恋愛に興味があるとは思えない。だから誰ともつきあう訳ない。ってことは兵長に本気になっても自分が辛いだけ。だからファンでいるのが一番なのよ、うん」
自分で自分の発言にうんうんとうなずきながら話すペトラを横目に見ながら、マヤは次の言葉をおずおずと切り出した。
「あの… ペトラ?」
「ん?」
「オルオのこと… どう思う?」
ペトラは間髪をいれずに叫んだ。
「老け顔!」
「そうじゃなくって…」
マヤは苦笑いしながら首を振った。