第4章 ペトラ
ペトラはマヤの言葉を噛みしめていたが、ふっとあることに思い当たった。
「マヤ…」
「ん?」
「まさかとは思うけど… オルオが私のことを好きだって言いたいの?」
「………」
「ちょっと、なんで黙ってんのよ!」
「ちが… 違うよ?」
マヤはペトラと視線を合わせない。
「怪しい…」
「……もしも、オルオがペトラのことを好きだったとしたら、どう?」
マヤは真剣に訊いた。
「……そんなこと、ありえない」
「だから、もしも…だよ」
うーんとペトラは考えていたが、質問に質問で返してきた。
「じゃあマヤは、マリウスの気持ちにもっと早くに気づいていたら、どうだったのよ」
今度はマヤが考える。
「……そうね… 私は多分… 受け入れてたと思う」
「そんな目で見てなかったのに?」
「うん。急には無理かもしれないけど、友だちとしては好きな訳だし、そこから始まる関係もあるんじゃないかな?」
「ふぅん…」
ペトラは口を尖らせた。
「でもさ、マリウスはハンサムだったからいいじゃん!」
マヤはマリウスの太陽のような明るい笑顔を思い浮かべた。
……いつも、笑っていた。
……いつも、励ましてくれた。
……いつも、好きだと言ってくれた。
でもマリウスは、もういない。
幼馴染みの二人が、この先恋に落ちることは決してない。
生きてこそだ。
「ペトラ。オルオは生きてる。それだけで上等だよ」
「マヤ…」
「ううん、オルオだけじゃない。ペトラも私も生きてる」
マヤは心臓の上に手を当てた。
「人類の自由のために捧げたこの心臓だけど、この鼓動がつづく限り、前を向いて生きよう。巨人との戦いもだけど、他のことも… 精一杯頑張ろうよ」
「マヤは真面目なんだから。でもそうだね! 頑張ろう! 他のことって… 恋愛ってことでOK?」
マヤは少し頬を赤くしてうなずいた。
「マヤも早く好きな人ができたらいいのにね」
ペトラは笑いながら立ち上がると、おやすみ!と隣の自室に帰っていった。
「……好きな人かぁ…」
布団に潜りこみながらそうつぶやいたマヤは、まだ恋をする自分を想像できないでいた。