第16章 前夜は月夜の図書室で
「……厄介ごとに巻きこまれないように人目を避けている」
……厄介ごと?
あ、エルドさんが言ってたっけ…。
……俺が新兵のころとかそりゃすごかったからな。歩けばコクられてる兵長に出くわすって感じでな。
告白されることは兵長にとって “厄介ごと” なんだ…。
なんとなくマヤは気分が沈む。
「ここは結構穴場なんだ。誰も来ねぇし、来たところで灯りをつけずにあそこで寝ていれば気づかれない」
「確かに…、私も兵長がいるなんて思いもしませんでした」
離れていた視線がマヤのもとへ帰ってくる。
やはり射抜くようなリヴァイの視線を受け止めればそのたびに、呼吸すら止まる気がした。
強い視線が有無を言わせず、まるで目に見えない糸のようにマヤの瞳とその視線の先にあるすべてを緊縛する。
……囚われる、気がした。
守るべき部下へ向ける視線なのだから、変に意識しちゃ駄目なのに…。
それでも、いくら自分に言い聞かせても胸が苦しくて、マヤは絡んだ視線の糸を切って楽になろうとする。
「………」
せっかく絡んだ視線をさりげなく外されたリヴァイは、胸にひゅっと冷たいつむじ風が通り抜けるような感覚を覚えながら話をつづけた。
「ここに俺がいることを、誰にも言わないでいてくれないか?」
斜め下の床を見ながらマヤは即答する。
「はい、わかりました。言いません」
「助かる」
リヴァイは礼を述べながら、マヤの様子が少しおかしいと感じた。
避けられた視線、苦しそうな息遣い、紅潮した頬。月光に反射して煌めく濃い髪の色も自分を拒絶しているように見えた。