第16章 前夜は月夜の図書室で
つい先ほどまでリヴァイ兵長の骨ばった手に強く握られ、互いに視線を絡めたまま “俺がお前を守る” などと言われて。
そのあまりの距離感と熱に、特別な何かがあるのでは? と勘違いしてしまった痛い私…。
苦しくなる胸を抑えながらも理由を訊いたならば、部下だからと至極当然な答えとともに兵長は顔を背け、手を離してしまった。
すぐそこに、目の前に立っているのに… 遠い。すごく遠い。
手を伸ばせばふれられるところにいるのに、ほんの少し前までは… 握られた手から溶けるような熱を感じていたのに。
今はもう。
避けられた視線、離された手、冷ややかな声。白い顔にかかっている、月の光を浴びて輝くさらさらとした黒い髪さえも不機嫌そうに見える。
怒っているのか、あきれているのか、今リヴァイ兵長が何を考えているのか全く見当もつかない。
……気まずい…。
「あの…」
自分がした質問によって変わってしまったこの場の空気を変えたくて、マヤは問いを重ねる。
「兵長は、どうしてここにいたんですか?」
「……あ?」
じろっと睨まれると再び視線が絡む。
途端に胸がトクンと跳ねた。
怖いけれど、また失敗したのかもしれないと思うけれど、それでもいい。
「……私が来る前からあのソファにいたんですよね? どうしてかなって…」
「………」
口をひらこうとしないリヴァイの様子に、やっぱり訊くべきではなかったと。
「……すみません。詮索するつもりじゃなかっ…」
謝るマヤを低い声が遮った。
「壁外調査の前夜は、ここにいることが多い」