第16章 前夜は月夜の図書室で
結論は出た。
「大事な部下のひとりだからだ」
顔色も声色も… 何ひとつ変えることなくリヴァイは視線を外し、握っていた両手も離した。
「あ…」
マヤはひと声漏らすと、耳まで真っ赤になりうつむいた。
……どうしよう…!
なんて馬鹿なことを訊いてしまったんだろう。
どうして私を守ってくれるの? だなんて。
答えなんか聞かなくても… わかりきっていたはず。
兵士長が部下を守ろうとするのは当たり前じゃない。
あのとき…、二日酔いの私を部屋に送ってくれたときに “お前は隙だらけだ” と怒られたのも、兵士長として部下を心配していただけ。さっきのザックをたしなめたように風紀の乱れを律しただけ。
それを、まるでそこに… マリウスのように… 何か特別な意味があるように思うなんて。
……期待するなんて。
違うの。ただ知りたかっただけなの。
マリウスの想いに気づけなかったから。知らなかったから。“守るから” の言葉の裏に隠されていた想いを。
もし兵長の “守る” にも想いみたいなものがあるのならば、特別な意味があるのならば…、今度は気づきたいから。知らなかったで済ませたくないから…。
でも、相手はリヴァイ兵長なのよ?
幼馴染みでずっと一緒にいて同期だったマリウスとは違うのに。
同じ意味で “守る” なんて言う訳ないじゃない。
本当に馬鹿だ、私。
……恥ずかしい…。
「……変なこと訊いて… すみませんでした」
「いや、別に」
抑揚のないその声が、マヤの心を落ち着かなくする。
……どうしよう…。兵長、怒ってる?