第4章 ペトラ
────848年────
ペトラは腰かけたベッドを左手で愛おしそうに撫でながらささやいた。
「……クレアとアンネが逝ってから、一年経つんだね…」
「……そうだね…」
四人で談笑した日々が、マヤの目にありありと浮かぶ。
「団長派、兵長派って盛り上がって楽しかったよね…」
「クレアもアンネも… ペトラがリヴァイ班に入ったって知って、きっと天国でびっくりしてるよ」
マヤは淋しく笑った。
「あはは、そうだね。兵長派代表としてはこれ以上にない成果を出したわ、私」
「ペトラ、リヴァイ班に入って随分慣れてきたでしょ? 兵長ってどんな感じなの? 」
「うーん そうね…。毎日間近で見られて夢のようだよ」
「ちょっとは距離が縮んだ?」
「それが… 兵長って必要最低限のことしか口にしないのよね」
「うん まぁ… 見るからにそんな感じだもんね」
「だから今日、マヤのことを訊いてきたのが引っかかるんだけど!」
ペトラは大きな声を出した。
「やっぱマヤ、兵長と何かあるんでしょ?」
昼間と同じ質問を繰り返す。
「だから何もないってば…。しゃべったこともないのに… あっ!」
今度はマヤが大きな声を出す。
「今日ね、ミケ分隊長の執務室で兵長に会ってね」
「ミケ分隊長の執務室?」
「あのね、マリウスの代わりに執務のお手伝いをすることになったの。それで早速今日から執務室に行ったら、兵長が来たの」
「それで?」
「で… 分隊長が兵長に、これから執務の補佐を務めるマヤだって紹介したから、私も慌てて名乗って よろしくお願いしますって頭を下げたんだけどね…」
マヤはそのときのリヴァイ兵長の様子を思い出して、身震いした。
「ものすごく冷たい視線でこっち見てて、私が挨拶しても無視して、めっちゃ不機嫌そうに出ていったの」
「ふぅん…」
「だって私、何も悪いことしてないよ? なんであんな怒ってるんだろ? めちゃくちゃ怖かったよ。私、リヴァイ兵長ってやっぱり苦手…。ペトラはあんな人のどこが好きなの?」
「好きっていうか… ファンなだけだけどね。確かにいつも不機嫌そうで取っつきにくいけど、いい人だと思うよ」