第16章 前夜は月夜の図書室で
マヤが目と鼻の先で、顔を赤く染めている。
どうしても、伝えたかった。
いつまでもマリウスとつぶやくマヤをもう見たくない。
不安なら俺がそばにいてやる。俺は死なない。守ってやる… ずっと。
想いを形にすれば、無意識のうちに白い手を包みこんでいた。すべすべしたやわらかい手は、やはり二度と放したくないと強く思わせる。
俺が守ってやるから。だからずっと、この手はこのままで。
想いを言葉にし、つながった手から伝わる熱を感じとった瞬間を永遠にと願う自分に戸惑っていた。
マヤも、その深い琥珀色の瞳に戸惑いを宿している。
握った華奢な手が震えている。
とにかく放したくない。時が止まればいい。
それなのに…。
「あ、あの… どうして… ですか…?」
マヤの少し困ったような声。
はっと我に返る。
……どうして… だと?
そんなの決まってるだろうが。俺がお前を守りたいから。
幼馴染みだろうがなんだろうが知らねぇが、どれだけ昔から一緒にいたか守ってきたか知らねぇが、死んでしまったやつなんかではなく俺が、決してこいつの前から消えたりしない俺が、守ってやりたいからに決まってるだろうが。
……だが… そういう風に強く想うのは、 何故だ?
こいつは… マヤは、部下のひとりだ。人類の未来に心臓を捧げた勇気ある調査兵団の仲間のひとり。それ以上でもそれ以下でもなく、男女の差もなく、特別な感情など存在しない… はず。
それなのに何故いつも、俺はマヤのことになると他のやつらに対するのとは違った感情が生まれたり、気持ちに振りまわされたり、思いがけない行動を取ってしまうのだろうか。
何かがおかしい。
特別なはずがないんだ。
だから、守りたいのは… 大切な部下のひとりだからなんだ。