第16章 前夜は月夜の図書室で
そこまで話すとマヤは、はっと我に返った。
……私、兵長に何を言ってるんだろう。
呼び出されたこの場所で、ただの同期と思っていた男から告白された。そしてその胸に抱かれそうになったところで兵長に助けてもらって。
驚きと混乱で身がすくんで。漠然と感じていた明日の壁外調査への不安がどんどん大きくなって。
ずっと今までなんとかやってこれたのは、壁外調査の恐怖に立ち向かえたのも、仲間の死を受け止められたのも、自分ひとりの力でなくて。
マリウスが見守ってくれていたからなのかと思うと、無力な自分が情けなくて。
そしてもう、マリウスはいないのだから…。
……でも泣いている場合じゃないわ。しっかりしろ、私!
マヤは組んでいた手にぐっと力をこめた。
「すみません、兵長。変なことを口走りました。壁外調査が怖いとか不安とか… 調査兵失格ですね、私」
しばらく黙っていたかと思うと急にから元気な様子で笑っているマヤを、リヴァイは心配そうに覗きこんだ。
「いや… かまわねぇが…。マヤ、ここには俺とお前しかいない。別に無理しなくてもいい」
「え?」
「壁外調査を前にして不安になったとしても恥じる必要はない」
「……はい」
「それに…」
リヴァイは次の言葉を口にするのを少しためらった。
「……マリウスのことだが。いつもそばにいたやつが死ねば動揺するのは当たり前のことだ。気にするな」
「……はい」
リヴァイの声は単調だったが、心からかけてくれた言葉だとマヤにはわかった。
……兵長…。
それがとても心にしみて、温かくて。