第16章 前夜は月夜の図書室で
マヤが黙ったまま見つめているのは、指を絡めて組んでいる自身の両手。
何を言おうとしているのか知りたくて、視線の先にある華奢な手をリヴァイも見つめた。
透き通るような白さでほっそりとしているその指にふれることが叶うならば、きっと放したくなくなるだろう。
繊細でしなやかな美しい指先に見惚れていると、マヤがつづきを語り始めた。
「……怖かったんです。ザックよりも… 誰よりも… 私が…。だから不安な気持ちが少しでも楽になるならと… 。訓練兵のときから知ってる同期だし、握手したら明日を乗り切る勇気が出てくるかもしれないって…」
声が湿りけを帯びていく。
「知らなかった…。壁外調査の前の日にこんな気持ちになるなんて…」
くちびるから漏れる言葉は、目の前に立っているリヴァイではなく、
「自分でも気づいてなかったんです…。何も知らなくてもきっとどこかで守られてるって甘えてたってこと… なのかな…」
マヤ自身の胸の内に向かっているかのように。
「マリウスがいなくなって…」
……マリウス…。
マヤの口から出たマリウスの名に、リヴァイは黙って眉間に皺を寄せた。
「友達だったから辛かったけど…、でも乗り越えてまた、今までどおりにやっていくのかなって…。だってずっとそうだったんです。どんどんみんな死んでいくから…。友達も先輩も…。涙が出たってまたすぐに壁の外に行かなくちゃ駄目で…。振り返らずに…」
組んでいる白い手に、ぽとりと一粒の涙がこぼれ落ちた。
「だから今回もまた大丈夫だって思ってたのに…。今まではマリウスがいたから大丈夫だったみたいで…」