第16章 前夜は月夜の図書室で
青白い月は刻々と、その姿を変える。
先ほどマヤが祈るように見上げていたときには涼し気でいて、どこか優しさを醸し出しながら浮かんでいたのに。
今はその白さが無慈悲に感じて。
………。
リヴァイがマヤにかける言葉を見つけられないでいると。
「……怖かった… です…」
「あぁ」
抑えていた感情がほとばしるように、マヤが話し始める。
「ザックは…、いつも優しくて… 人が嫌がることとか… しなくて…。なのに…」
思い出したのか自分で自分の肩を抱いて青ざめている。
「……やめてって言っても… 全然放してくれなくて…。どうして、あんな…」
うつむいて黙ってしまったマヤに声をかける。
「男はな、ああいうとき止められなくなるんだ」
……精一杯優しく言っているつもりだが、マヤにはどう聞こえているだろうか?
「だから男に隙を見せるな」
……俺に言われたくないんだったな…。“女なんて抱きたいときに抱ければいい” と思ってる俺なんかには。
マヤはうつむいたまま、小さくうなずいた。
その素直な様子にぐっとくる。ひとつ、訊きたいことがある。
「……やつに手を握っていいかと言われたとき、なぜ断らなかった? つきあうのはすぐに断っていただろうが」
「……それは…」
肩を抱いていた両腕を下ろして胸の前で組むと、マヤはその手をじっと見つめた。
「今日… ある人から聞いたんです。つきあったりはできなくても…、握手することで壁外調査の不安をなくしてあげられるからって。でもザックの不安をなくしてあげたいって思ったんじゃなくて…」
マヤはそこまで話すと、口をつぐんでしまった。