第16章 前夜は月夜の図書室で
……は?
つきあうのを断ったように、てっきり手を握るのも断るかと思ったのに承諾したマヤに信じられない思いだ。
本当に男のことなんか何もわかってねぇんだな…。
手を握るだけで終わる訳ねぇだろうが!
仕方がない。
姿を見せるつもりはなかったが、いざとなったら助けるか…。
ザックが腑抜けで手を握るだけで本当に終わる可能性もあるから、とりあえずはこのまま様子見か…。
「はぁはぁ…、な、何もしないから手だけじゃなく、だ、だ、抱いてもいいかな?」
……だよな。
ソファから身を起こすと、目の前のテーブルの上に数個置かれているペーパーウェイトをひとつ掴む。
本気で投げると死ぬかもな。軽く… いかねぇと。
「嫌! やめて! ザック! 放して!」
……クソッ!
なぜかマヤの悲鳴を聞くと苛立つ。
見ればザックがマヤの両肩をがっしりと掴んでいた。
……あの野郎!
迷わずやつの頭を目掛けて真鍮のペーパーウェイトを投げた。
「あいたたた! だ、誰だよ!?」
俺はゆっくりと窓辺に向かって歩いていく。
「第三分隊所属、ザック・グレゴリー」
「リ、リ、リ、リヴァイ兵長!」
ザックは慌てふためいている。
ちらとマヤの様子を確認すると、混乱してはいるがしっかりと立っているので大丈夫そうだ。
「今夜は確かに特別だ…」
ぴたりとザックの前で立ち止まった。
「明日は泣く子も黙る壁外調査だからな…」
直立不動の姿勢を取ったザックは、がたがたと震えている。
「……だから今日だけは大目に見てもらえる。そういう意識が生まれちまうのも仕方がねぇよな?」
「は、はい…」