第16章 前夜は月夜の図書室で
そこは厩舎に隣接する敷地であるが、小さな雑木林に遮られ、それぞれの建物は互いに見えない。主に荷馬車を保管している巨大な格納庫が三棟建ち並ぶ風景は圧巻だ。
てっきりその巨大格納庫のどれかに入るのかと思いきや、素通りして敷地の奥へ進むハンジとモブリットを不思議に思いながらマヤは黙ってついていく。
巨大格納庫の裏には、表からは見えなかった掘っ建て小屋と倉庫がぽつんと建っていた。
思わず声が出る。
「……これは?」
「おや、マヤは初めてかい?」
「はい。新兵のときに一度だけあちらの巨大格納庫に見学で入りましたが、第一分隊の第一班に配属されてからずっと騎馬なので、荷馬車とのかかわりがなくって全然ここには来たことがないです…」
申し訳なさそうに答えるマヤに、モブリットが優しく声をかける。
「荷馬車班である第四班に配属されなきゃ普通そうだよな」
「そうなんだね、でも問題ないよ。今、ここにいるんだから!」
ハンジはそう言って白い歯を見せると、立て板に水を流すように説明を始めた。
「表の巨大格納庫はマヤも入ったことがあるなら知ってるように、主に荷馬車が保管されている。他にも立体機動装置の倉庫に一緒に保管できないような大きなものはなんでもごっちゃに置いてあるね。そしてここだ!」
びしっと目の前の掘っ立て小屋と倉庫を指さす。
「ここは普段は空き家になってるけど、技術班が来たときの根城となっているんだ!」
訓練兵時代に座学が優秀な者の進む道に、技巧科技術班がある。そこは訓練兵だけではなく、一般の民からも機械工学の優秀な技術者を引き抜くことがある。内地の工場都市に本部を構えている。
「技術班が来るんですか…?」
そんな話は聞いたことがないとマヤは目を丸くした。