第16章 前夜は月夜の図書室で
厩舎を出たところで、飼い葉桶を抱えたヘングストに声をかけられた。
「リヴァイ兵長、マヤは…?」
「問題ない。……よく寝ていた」
リヴァイの答えに目を丸くする。
「ふぉっふぉっふぉっ! 寝ておったか!」
愉快そうに腹を抱えるヘングストに、ゆっくり寝かせてやってくれと頼むとオリオンの待つ厩舎へ向かった。
「親方~! 配り始めていいっすか?」
リヴァイの後ろ姿を優しいまなざしで見送っていたヘングストは、元気な弟子たちの声に振り返った。
夕飼いを与えるためにアルテミスの厩舎に、サムとフィルが今まさに入ろうとしている。
「いや、そこは一番最後に配れ。マヤが昼寝しとるそうじゃ」
「「了解!」」
馬房で寝てしまったマヤを思い浮かべた二人は笑いながら、アルテミスの厩舎とは別の厩舎に入っていった。
「……んん…」
マヤがゆっくりとまぶたを開けると、そこは厩舎の高い天井。
「……あれ。あっ、そうだ。寝ちゃったんだ…」
もたれかかっているアルテミスの体温が心地良い。ゆっくりと身体を起こすと、声をかけた。
「アルテミスのおかげで熟睡しちゃった。ありがとう」
ブルブルと返事をしながらアルテミスも起き上がる。
うーんと思いきり伸びをしながらマヤも立ち上がると、兵服についた寝わらをはらう。そしてアルテミスの腹についている寝わらもはらってやった。
馬房から出ると、アルテミスが名残惜しそうに馬柵棒から顔を突き出す。
その愛らしい顔を撫でてやりながら、
「……もう行かなくちゃ。明日はよろしくね」
ちゅっと鼻先に口づけると、アルテミスがブブブブと鼻を鳴らして甘えた。