第16章 前夜は月夜の図書室で
「リヴァイ兵長! 今、きっとそのうち来なさるだろうと話しとったところじゃ!」
自分の予想どおりに現れたリヴァイの姿に、ヘングストは実に嬉しそうにしている。
「親方の言うとおりだったな、さすがだわ」
「でもよ、ここに顔出す兵士って決まってねぇか? 俺だって当てられそうな気が…」
サムとフィルがこそこそと話しているところへ、ヘングストが訊いてきた。
「お前ら、マヤが帰るところを見たか?」
「いや、見てねぇですけど」
「ふむ…。ちょっと遅いのぅ…」
思案顔でつぶやいたヘングストは、オリオンの馬房のある厩舎の方へ行こうとしていたリヴァイに声をかけた。
「リヴァイ兵長。マヤが来てから結構時間が経ってるんじゃ。様子を見てきてくれんかの? 大丈夫だとは思うんじゃが、何かあってからでは遅いからのぅ。ほれ…、新兵の事故もあったことじゃし…」
「あぁ」
リヴァイが調査兵団に入ってまもないころ、まだ自分の馬と信頼関係を結べていなかった新兵が事故を起こしたことがある。
新兵は馬房の中に入り、馬の真後ろに立ってしまった。視野の広い馬でも真後ろだけは死角になっているので、そこに立つことは危険だ。もちろんそんなことは訓練兵団で習ってはいるのだが、その新兵は早く自分にあてがわれた馬と仲良くなりたかったのだろう。焦っていたのだ。馬の真後ろに立った上に、よかれと思って尻尾を撫でてしまった。
驚いた馬に後ろ脚で思いきり蹴られた新兵は重傷を負った。
「……すまんのぅ、わしらはこれをやらないかんので…」
申し訳なさそうに飼い葉桶の方に目をやるヘングストに、リヴァイは軽くうなずいた。
「マヤの馬、アルテミスの馬房はあの厩舎の奥じゃ」
数棟ならんで建っている厩舎のうちの一棟を指し示した。
「わかった」
厩舎に入っていくリヴァイの背に、ヘングストとサムにフィルはそろって頭を下げた。