第16章 前夜は月夜の図書室で
食堂を出るとザックが待っていた。
「マヤ、さっきはごめん」
「ううん」
「もう行かないといけないんだ」
そう言ってちらっと見た方には、ザックと仲の良い兵士が数人たむろしている。
「だからさっきの話のつづきなんだけど…。夜、図書室に来てくれないか?」
「……え?」
予想もしなかった誘いに混乱していると、10時に待ってるからと言い残してザックは仲間のもとへ行ってしまった。
一方的に場所と時間を決められて困惑したが、ザックが言おうとしていたマリウスの話は気にかかる。
マヤは、10時に図書室ね… と心の中で復唱すると厩舎へ向かった。
厩舎に着くといきなり声をかけられた。
「マヤ! やっぱり来たのぅ」
「ヘングストさん、こんにちは」
「そろそろ来るころかと、アルテミスも待ちわびておるわい。ゆっくりしていきな」
「ふふ、はぁい!」
嬉しいヘングスト爺さんの言葉を聞きながら、馬房へ向かう。
いつものように奥に進むと、左右の馬房にいる馬たちがブルルルと歓迎の声を上げた。
「こんにちは! みんな、明日は壁外調査よ。頑張ろうね」
ブルルル、ブルッブルッ!
愛馬の馬房の前に到着すると、待ちきれない様子でアルテミスは顔を突き出していた。
「アルテミス、来たわよ」
撫でてほしくてたまらないといった様子の鼻先にそっとふれる。
指先に感じるアルテミスの熱い息遣い、ほんの少しひんやりとした湿った鼻、確かな鼓動。
……息づいている。
マヤは生命(いのち)を感じる。
ブブブブ、ブブブブ。
優しく慈しむように鼻先から鼻すじへ撫でる主の手に、甘えた声を出すアルテミス。
「……明日はまた… 壁外調査よ、アルテミス…」
首すじをマッサージしてやりながら、話しかける。
「あのね…、ハンジさんの捕獲班に入ることになったの」