第16章 前夜は月夜の図書室で
……行っちゃった…。
マヤはザックの背中を見送りながらぼんやり思ったが、はっと気づく。
……私も一刻も早くここから出たい…!
苦手意識のあるジムと、がらんとした食堂で二人きりだなんて考えただけで胃が痛くなりそうだ。
「あの… ジムさん、お騒がせしました…。失礼します…」
そう頭を下げて出ていこうとすると、呼び止められた。
「マヤ」
「は、はい!」
「その… あれだ」
「はい?」
口ごもるジムを思わず見上げる。
「マリウスは残念だったな…」
ぼそっとつぶやいたジムの声からは、いつもの粗暴な雰囲気は感じられない。
「はい…」
「お前ら、よく一緒にメシ食ってたもんな」
「はい…」
「ついこないだだったのに、もう明日に次の壁外調査とはきついよな」
「はい…。でも調査兵団に入ったからには覚悟してます」
マヤはまっすぐにジムの目を見た。
「そうか…。大したもんだな…」
ジムはくるりと背中を向けると、厨房へ歩きながら言った。
「……これからはさっきの坊主みたいなのが増えるだろうが、気をつけろよ」
「……え? ジムさん、それってどういう…」
どういう意味ですか?と訊こうとしたが、もうジムの姿は厨房の奥に消えていた。
気にはなるが厨房まで追いかけていって訊くほど親しくはない。
しばらくその場でたたずんでから、マヤはそっと食堂を出ていった。
食堂の扉がぱたんと閉まる音を聞きながら、ジムはひとりつぶやいた。
「……死ぬなよ」