第15章 壁外調査までのいろいろ
黙って店を出ていこうとしたが、ふと足が止まった。
俺は聖人君子ではない。
……女なんて抱きたいときに抱ければいい…。
人並みに性欲もあるし女も気ままに抱いてきた。そこに感情などなく、ただ欲望を満たす行為があるのみ。
煩わしい人間関係が嫌で後腐れのない娼館の女ばかり相手にしてきたが、そんな自分と娼婦、そして今目の前で色欲をまとって立っているこの女とどこが違うのだろうか? どれほどの差があるのだろうか?
……何も違わない。
それに妙に確信めいた何かもあった。
彼女は… マチルドは、関係したとしても変わらない。
気づけばリヴァイは、何も言わずに階段へ向かった。すれ違ったマチルドが扉まで歩き、鍵を閉める音が店内にやけに大きく響いた。
やはり一度関係を持っても、マチルドの態度は何も変わらなかった。
余計なことは言わず、態度も素っ気なさすぎるほどだ。
その後誘ってくる訳でもなく、これまでに階上に行ったのはその一度きり。
今日で… 二度目になるのか…?
いや、ならない。
……もう、この女と肌を合わせることはない。
なぜなら…。
ひとりの女の顔と声が浮かびそうになったとき。
ジャキン!
リヴァイの思考を断ち切るかのように、はさみの最後の音が響いた。
「いかが?」
マチルドが合わせ鏡を持ち、妖艶に微笑んでいる。
後頭部とサイドを確認したリヴァイがうなずくのを確認すると、慣れた手つきでケープを取り払う。
立ち上がったリヴァイを見て当然のように階段へ向かうマチルドの背中に、低い声が静かに刺さった。
「……帰る」
ぱっと振り向いた顔には軽い驚きの色が浮かんでいた。
「あら…、忙しかったのね。また今度…」
すかさず遮る声は冷たい。
「今度はない」