第15章 壁外調査までのいろいろ
他にも流行だとかほざきながら最新のスタイルの髪型を押しつけてくる店主もいるが、それらはすべて冷たく一瞥すれば済む話だ。
本当に厄介なのは、誘いかけてくる店。
最初に男の店主にあからさまに誘われたときは蹴り殺しそうになったが、地下街にいたころとは違う、今は兵団の立場と仲間が… そう思いとどまり二度とその店の敷居をまたぐことはなかった。
そうして王都や街の床屋を転々とする。
……したかった訳ではない。せざるを得なかった。
だがある日、ふらっと入ったマチルドの店で流浪の日々は終わりを告げた。
俺のことを調査兵団のリヴァイ兵士長と知らないのか全くそのことにはふれず、ただオーダーどおりに髪を切るだけ。余計なおしゃべりも、詮索も… そして愛想もなかった。
好奇な目に世辞のオンパレード、愛想笑いに色目を使われて辟易としていたところに、マチルドの清々しいまでの無関心は居心地が良かった。
カットの腕も申し分なく、行きつけの店になった。
通うようになっても無駄口を叩かないのは相変わらずで、それがこの先もつづくと漠然と思っていたある日。
昼下がりの店内は他に客がいなかった。
前髪のカットが終わり、合わせ鏡での確認も済ませケープも取り払われた。料金は前払いの店なので、世話になったと告げ出ていこうとしたとき。
「リヴァイ兵士長」
初めて名を呼ばれ軽い驚きとともに振り返ると、そこには見たこともない女の顔があった。
「二階に上がっていかない?」
「………」
その言葉が何を意味するのかは、すぐにわかった。なぜならマチルドの目が今までに色目を使ってきた髪結いの男どもや女どもと同じだったからだ。
……こいつも… か…。