第15章 壁外調査までのいろいろ
数日後の街の床屋。
ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ。
目を閉じていると、はさみの音が思いのほか響く。そのたびにほんの少しだけ心の中のよどむ何かが削ぎ落とされていく、床に舞い落ちる髪のように。
後頭部と襟足の刈上げは終わり、今は最後の仕上げに前髪の毛先を容赦なく切っている。
ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ。
ふいに耳元でささやかれた。
「今日はこれで店を閉めるわ」
リヴァイが目を開けると鏡越しに強く、髪結いの女のなまめかしい目つき。
「………」
何も応えず視線を欲望にまみれた女の眼光から、斜め下の板張りの床へ逸らす。
その様子に女はうっすらと笑みを浮かべ、再びジャキジャキとはさみを入れる。
そのリズミカルな音を遠くに感じ、リヴァイの意識は自身の内面の奥深くに沈みゆく。
……もう、この女と肌を合わせることはない。
この女… 髪結いの女店主のマチルドとは関係を持ったことがある。
大胆なカッティング技術はそのまま彼女を物語っていた。背の高い大作りな顔立ちの美人。だが何よりリヴァイが気に入ったのは実は技術でも綺麗な顔でもなく、余計なことは何も言わないところだった。
兵士長など唯一無二の役職のせいか、街にひとたび出れば注目を浴びることも多い。
遠巻きに見物して噂しているクソ野郎どもは勝手にすればいいが、問題は店だ。まだ飲食店や商店は無視を決めこみやり過ごせるが、床屋はそうもいかない。
普段は決して誰にもさわらせない髪や顔を無防備にさらし、息のかかる距離に近づかれる。
そうして理容椅子に座ったら最後、ぺちゃくちゃとうるさい。あることないことを言ってきて意見を求める。
「……で、兵士長殿はどう思われます?」
……知るか。