第15章 壁外調査までのいろいろ
「うちは…、親父は大工だ」
「大工さんでしたか…。あはっ、全然違いましたね」
見当違いにマヤは苦笑いしていたが、ラドクリフの次の言葉に納得した。
「いや、そうでもねぇ。親父は大工だが、隣が花屋だったんだ」
「お隣がお花屋さん…、なるほど」
うなずくマヤをちらりと見ながら話をつづける。
「その隣に5歳上の幼馴染みがいてな…。一人っ子だった俺は姉貴のように慕っていたんだ。その人に花のことを色々教えてもらった」
ラドクリフはその幼馴染み、ビアンカの笑顔を思い浮かべた。
……ひまわりは、お日様が大好きで追いかけるの! だから “ひまわり” というのよ。
……花にはそれぞれ花言葉があるの。
……ラド、花は好き?
「俺が調査兵団に入団すると決まったときに、その人がくれた花が… ガザニアなんだ」
「………!」
マヤは胸がいっぱいになって、すぐに言葉が出てこなかった。
……ガザニアの花言葉は “あなたを誇りに思う”。
調査兵団に入団すると決意したときの気持ちは、決して忘れない。並々ならぬ覚悟を胸に秘めても、死への恐怖はまとわりついて離れない。自身の決断に自信が持てなくなり不安にさいなまれる。
そんなときに近しい人から “誇りに思う” と伝えられたなら、どれだけ心強く… 嬉しく… 自信が満ちるだろうか。
ラドクリフ分隊長の優しさと強さの根っこになっている部分を知った気がする。
「……分隊長。私、ガザニアの花が大好きになりました」
「そうか」
「はい」
今自分が植えたガザニアの花を見下ろせば、陽光を浴びて輝いている。
「マヤ、手伝ってくれて助かった。もう行っていいぞ」
「はい。ありがとうございました。失礼します」
立ち上がって頭を軽く下げ、去ろうとしたマヤの背に大きな声が追いかけてきた。
「花屋の話、誰にも言うなよ! 特にハンジ!」
「了解です!」
振り向きざまに敬礼したマヤは、白い薔薇の花のつぼみのようだとラドクリフは思った。