第15章 壁外調査までのいろいろ
「……そうか?」
「はい!」
ラドクリフは自身の頬が緩むのを感じ、照れ隠しにくるりと背を向けた。
「まだ時間はあるな。マヤ、手伝え」
ぶっきらぼうにそう命じると、植えかけの花の苗を指さした。
「はい!」
元気に返事をするとラドクリフの隣にしゃがんだ。
「そこに間隔をこのくれぇあけて苗を植えろ」
土まみれのごつごつした両手で20センチほどを示した。
「了解です」
しばらくは言われたとおりにその濃いオレンジ色が鮮やかな花の苗を植えていたマヤだったが、手を止めてラドクリフの方を見る。作業をしているうちに、二人の距離は少し離れてしまっていた。
「分隊長、このお花はなんていうんですか? 菊の花に似てるけど…」
ラドクリフも作業の手を止めた。
「ガザニアだ。菊の仲間だからな、似ているよな」
「濃いオレンジの花びらひとつひとつが黄色く縁取られていて、すごく綺麗です。なんだか元気が湧き出てくる感じ」
「あぁ そうだな。……俺も好きな花だ」
なぜか空を見上げ、どこか遠い目をしているラドクリフを少し不思議に思いながらマヤはさらに訊いた。
「ガザニアにも花言葉はあるんですか?」
空から手許の艶やかな花に視線を移し、ぼそっとひとこと。
「……あなたを誇りに思う」
「やっぱりあるんですね。……あなたを誇りに思う…。素敵な言葉…」
「あぁ…」
心ここにあらずといった様子のラドクリフに、このまま訊いてもいいのかと少しためらったが、前から知りたかったので思い切る。
「あの分隊長、ご実家がお花屋さんなんですか?」
「……いや?」
怪訝そうなラドクリフの声に、質問したマヤは変なことを訊いたかと顔を赤らめた。
「あ、その、お花に詳しいからおうちがお花屋さんだったのかな?と思いまして…。すみません…」