第15章 壁外調査までのいろいろ
大浴場へとつづく小道を駆けていくと大きな背中が見えてきた。脇目も振らずに、しゃがんで花の手入れをしている。
「ラドクリフ分隊長!」
呼びかけにのそっと立ち上がったラドクリフは色とりどりの花に囲まれて、まるで森のくまさんだ。
「マヤか、どうした?」
「やっと会えました…」
軽く息を切らすマヤに怪訝そうな顔をする。
「飲み会では失礼しました!」
「あぁ?」
「酔って色々と失礼なことを言いまして…」
「……確かにあのあと、団長やハンジにからかわれて困ってる。どう責任を取ってもらおうか」
ラドクリフのその言葉に顔面蒼白になったマヤは慌てて謝罪した。
「ほ、本当に申し訳ありません!」
そう叫んだまま90度のお辞儀で微動だにしないマヤの耳に、がはははと大きな笑い声が聞こえてきた。
「おい冗談だ! 顔を上げろ」
恐る恐る顔を上げると、屈強な上半身の上にちょこんと乗っている真ん丸な顔が愉快そうに笑っていた。
その優しい目の色を確認して、ほっと安堵の息をつく。
「怒っちゃいないが、団長とハンジにからかわれてるのは本当だ。単なる土いじりの好きな男だと思われていたのが、“花博士“ なんて妙なあだ名まで頂戴する始末だ」
両肩をすくめ苦笑いのラドクリフを見て、マヤは笑った。
「ふふ、“花博士” ですか」
「お前のせいなんだぞ、笑うなよ」
「……すみません。でも分隊長にぴったりのあだ名だと思いますよ?」
「俺はな、リヴァイやミケみたいな強い男を目指してるんだ。それが花博士だなんて弱々しくて情けねぇだろう」
「そんなことないです! 分隊長は充分に強いですし、その上お花も好きでいて…、そういうの素敵だと思います」