第15章 壁外調査までのいろいろ
「アーチボルドさん!」
今すぐに会いたい人のうちのひとりが目の前に現れて、思わず大きな声が出た。
「良かった! 捜していたんです」
「うん? 俺を?」
「はい。……あの、飲み会では酔って変なことを色々と口走ったみたいで…、すみませんでした」
頭を下げるマヤをぽかんと口を開けて見ていたアーチボルドだったが、すぐに優しく声をかけた。
「なんで謝るんだい? 可愛かったのに」
アーチボルドの “可愛い” の言葉に即座に顔を上げたマヤは真っ赤になっている。
「か、可愛い…?」
「……俺、妹がいるんだよね。なんか思い出しちゃってさ」
「そう… ですか…」
「兵団の女って酒強いやつが多いしさ…」
ナナバを思い浮かべながらアーチボルドは微笑んだ。
「ああやって酔っぱらうのって可愛くていいと思うぜ?」
「そう… ですか…」
“可愛い” など言われ慣れていなくて、どう返事をすれば良いかわからずにいた。
「……だからそんな気にしないでいいと思うよ」
「はい… すみません」
ぺこんと頭を下げたマヤの肩をぽんと叩いて “じゃあまた” と去ろうとするアーチボルドを慌てて呼び止めた。
「あの! アーチボルドさん!」
「なんだい?」
「ラドクリフ分隊長がどこにいらっしゃるかご存知ですか?」
「あぁ…、今なら風呂のそばの花の手入れをしてるんじゃないかな?」
「そうですか! ありがとうございます」
嬉しそうに礼を言い、大浴場の方へ駆け出すマヤの背中を優しいまなざしで見送ったアーチボルドの脳裏には、故郷にいる妹の笑顔が浮かんでいた。
……無事に壁外から帰ってこられたら、久しぶりに家に帰るか…。