第15章 壁外調査までのいろいろ
「ふわぁ…」
次の日の昼休み。昨夜の遅くまでのおしゃべりがたたって先ほどからあくびが少々。いっそこのまま昼寝をしたいが、マヤには会いたい人がいた。
……いや会わなければいけない人。
早めに昼食を済ませ、幹部棟の二階へ急ぐ。
階段を上がってすぐのラドクリフ第三分隊長の執務室の前までやってきた。
コンコン…。
今まで一度も訪れたことのない部屋の扉をノックするのは緊張する。おまけに謝罪したくて来ているのだ。
幹部クラスの集う飲み会にミケ分隊長の計らいで参加させてもらったのに、酔っぱらってしまい醜態をさらした。
まだ謝っていないのはラドクリフ第三分隊長とその副官のアーチボルドだ。
本当は昨日までにきちんと飲み会の出席者全員に謝罪したかったが、行き違いで会えないでいた。
コンコン…。
もう一度ノックしたが返事はない。
「……失礼します…」
仕方なくそっと扉を開けて中を覗けば、やはりそこには誰もいなかった。
「やっぱりいない…」
マヤは軽くため息をつくと、階段に向かった。
食堂にもいない、執務室にもいない。昨日は訓練場と馬場にも足を向けたが出会えなかった。
……どうしてこんなに会えないんだろう…。
しゅんとしながら少し暗い顔で階段を下りていたが、突如としてぱぁっと顔が紅潮した。
「ラドクリフさんといえば花壇じゃない!」
敷地内に花壇は三か所ある。正門のところ、一般棟の中庭、そして大浴場へつづく道沿いである。
とりあえずは今一番近いところにある正門の花壇に行こうと幹部棟を出た瞬間に誰かとぶつかりそうになる。
「すみません!」
「いや、こちらこそすまない」
やわらかな声にマヤが顔を上げると、アーチボルドの赤毛が風になびいていた。