第3章 調査兵団
エルヴィン団長のその言葉で、一人… また一人と遠慮がちに去り始めた。
そして突如、多数の訓練兵が背中を向けた。
ザッザッザッザッと周囲に巻き上がる砂埃は、あたかも去る者の恐怖心を覆い隠すようだ。
リーゼはしばらくマヤの方をじっと見ていたが、その琥珀色の目に迷いがないのを見て取ると、そっとマヤの肩に手を置いた。
マヤはリーゼの手に自身の手を重ね、力強くうなずいた。
「……マヤ… 死なないでね」
ささやきとともにリーゼは砂埃の中に消えた。
去りゆく軍靴の響きが終わったとき、その場に立っていたのはマヤとマリウス、あとは男子15名、女子6名。
残った者の顔を見渡しながら、エルヴィン団長は告げる。
「では今ここにいる者を、新たな調査兵として迎え入れる。これが本物の敬礼だ! 心臓を捧げよ!」
「ハッ!」
右のこぶしを心臓の上に押し当てる。
「よく恐怖に耐えてくれた…。君たちは勇敢な兵士だ。心より尊敬する」
西方訓練兵団から調査兵団に入団した訓練兵は、合計23名だった。
エルヴィン団長が、壇上から去った。
マヤを始め心臓を捧げる決意をした者たちは、まるでその場に根が生えたように動けずにいた。
決意は変わらない。
覚悟も揺るがない。
しかしエルヴィン団長の半ば脅かしのような勧誘文句は、まだ若い訓練兵たちを縮こませるには充分な破壊力があった。
「マヤ!」
立ちすくむマヤの肩を、マリウスが軽く叩いた。
振り向くマヤの顔を見て、マリウスは笑う。
「泣きそうな顔すんなよ。大丈夫だって!」
「……ほんとポジティブだよね、マリウスって」
「まぁな! オレは生き残って巨人を殺しまくって、リヴァイ兵士長みたいになってやるぜ!」
「あぁ… 一人で一個旅団並みの戦力の…?」
「そそ、人類最強! かっけーよな! さっきいたじゃん」
「ん? どこに?」
……そんなすごく強そうな人、いたっけ?
マヤは思わず疑わしそうな声を出した。
「団長の後ろで、腕組んでたぜ」
「え?」
……あのつまらなさそうにしていた小柄な人が、リヴァイ兵士長?
これが、マヤがリヴァイ兵士長を初めて認識した瞬間だった。